ケンタッキーの、ハンバーグサンドがとても気になって、それを食すために、ケンタッキーに行ったのです、さっき。
日曜日の昼のケンタッキーは、ファミリーだらけでした。50代くらいの夫婦とその娘夫婦と孫、とか、若い夫婦と赤ちゃん、とか、若い母と娘、とか、そういった方々。平和、幸福、愛、夢、希望、といった言葉で埋め尽くされているかのような光景に、軽い眩暈と巨大なアフェー感をおぼえながら、入店しました。
ハンバーグサンドとポテトと飲み物のセット、それに骨なしケンタッキーを追加して注文。お会計1040円を支払った直後に、ハンバーグサンドとポテトと飲み物と骨付きの普通のチキンのセットが990円であるのを発見してしまい、骨を我慢すれば50円も安かったのに…、と、骨をめんどくさがった自分を呪いました。
客席に行くと、さきほどのファミリーたちにまぎれて、老夫婦だけで座っているテーブルを発見、しかもその横があいていたので、そこに座りました。もちろん、その老夫婦も幸せなんだろうけど、他のファミリーに比べれば、仲間に近いような気がしたのです。
黙々と食事をしているうちに、平和で幸福に見えた客席が、実はそうではないことがわかってきました。
奇声を発しながら走り回る子供、それを何故か笑顔で眺める両親。「おじいちゃん、いつ遊ぶ?いつ私と遊ぶの?ねえ?欲しい物があるんだけど。」とでかい声で援助交際の誘いと思われてもおかしくない電話をしている女児、それを横で見守る母親、こちらももちろん笑顔。プリキュアの歌の大合唱、お母さんたちは笑顔で手拍子です。
どうやら、私の知っている社会のルールとは違うルールがまかりとおっているようでした。どうやら、私はここに来るべき人間ではなかったようです。持ち帰りにすればよかった。ゴミ捨てるのめんどくせえからここで食おう、注文する時にそう思ってしまったのです。再び、めんどくさがった自分を呪いながら、食べ進めました。
子供がうるさいのなんか当たり前じゃないか、子供は騒いだり暴れたり泣いたりするのが仕事なんだから。というか、店員が何も言わないってことは、これがOKなのがここのルールなんだから、別にいいじゃないか。騒音だと思うから騒音なんだ、BGMだと思えばBGMだろ、プリキュア唄ってるんだし。そのようなことを自分にいい聞かせていると、だんだん、やっぱりここは平和で幸福な場所のように思えてきました。
が、残念なことに、そんな平和と幸福を壊す悲しい出来事が起きてしまいました。
私の隣の老夫婦のさらに隣に、夫婦と幼児がいました。幼児は少しだけ喋れるようになったくらいです。その幼児が、バイバイ、と老夫婦に言いました。あら可愛い子ね、バイバイ、とお婆さんが返事をしました。それからずっと幼児は、バイバイ、と言い続けました。帰るわけでもないのに、バイバイ、と言われ続ける老人。バイバイ、バイバイ、バイバイ、もしかしてお爺さんかお婆さんのどちらかがもうすぐ死ぬんじゃないか?この世からバイバイなんじゃないか?、という不吉な空気が生まれるバイバイ連呼。私も聞いていてだんだん怖くなってきましたし、いつの間にか、騒がしかった客席が静かになっていて、バイバイがやけに大きく店内に響き渡っていました。さっきまで笑顔だった老夫婦の顔も曇っています。バイバイ、バイバイ、バイバイ。怖いよ!いい加減やめさせろよ!バイバイ、バイバイ、バイバイ。私は大急ぎで残りを食べて、逃げるように店を出ました。
家に帰り、あの見知らぬ老夫婦が長生きすることを祈りました。あと、ケンタッキー、好きだけど、もう日曜の昼には行かないと心に決めたのでした。あー怖かった。